ウィリアム・H・マクニール 中公文庫
本書は、西洋史を戦争を中心軸に著述した歴史書で、単なる軍事史ではなく、社会、経済情勢を含んだ歴史書になる。この中で、日本の戦争に影響を与えた部分で、興味深い点をいくつかピックアップした。
戦国末期に日本に現れた火縄銃は、一発発射後に次を撃てるまでの時間がかかり、長篠の戦い(1575年)で信長が数列に配置して威力を発揮したことが知られている。ヨーロッパではこれより後に1600年頃、オランダのマウリッツがこの方式を軍事教練で使用する事で、軍事専門の傭兵でなくても、強力な軍事力を発揮する事を証明した。銃は、弾丸も含めて標準化されたものを使用する必要があり、1800年代中頃まで、ヨーロッパでも火縄銃は主流の銃であった。
銃身に条痕を刻んで、現在の先端が尖った弾を使用し、使用距離・命中精度が格段に向上するライフル銃は、クリミア戦争(1853年~)(ペリーの黒船来航年)で威力を発揮し、米南北戦争(1861~65年)で大量に使用された。
(戦後不要になった中古が日本に流れ込み、維新戦争(1868年)で使用された。薩長が優位に立てた理由もライフル銃を入手できたことにある。筆者注)
この時期、銃製造技術に大幅革新があった。それ迄、職人が1丁ずつ作っていたが、米国で職人でなくても作れる様、部品単位で製造して組み立てる方式が確立し、大量生産が可能になった。(その後、フォードの部品を流れ作業で組み立てる自動車の製造法が大量生産法として有名になった。)
同時期、大砲も鉄の製造技術の向上でライフルと同様の条痕を刻ん後装式のアームアストロング砲が出現していたが、まだ、命中精度・発射の安定性等で課題があった。(薩英戦争で英国艦隊が完勝できずに引き上げたのも、そのあたりにあった模様。筆者注)
日本は、武器に関しては、多少の遅れはあったものの、先端技術を追いかけていた事が、植民地にならなかった理由の一つと言えそうだ。