白井 聡 東洋経済新報社
今から50年程前は、資本主義の様々な弊害を指摘する思想は共産主義で、資本論はその聖典だった。しかしソビエトの崩壊、東欧諸国の脱共産主義化、スターリン、毛沢東等共産主義指導者の独裁の実態の暴露等で、共産主義者の主張が、単なる夢物語にしか過ぎなかった事が白日の下に晒される事になってしまった。
その後、米国の一国優位の下、新自由主義なる経済政策で、貧富の格差が拡大し、資本主義も隘路に入り込んでいる事も明白になって来ている。
経済・政治体制としての欠陥が明確になったはずの共産主義だが、資本主義の欠点をこれだけ分析出来ている思想は他にない。この点から、著者は改めて資本論を判り易く解説し、思想の武器として使用する事を模索している。1970年代に学生だった者にとっては、判り易い用語による解説で、改めて資本主義について整理、理解出来た気がする。
だたし、この著書を読んで、局限化した資本主義への武器になるかというと疑問だ。人間の価値を生産関係の有用性に還元して評価する事に慣れてしまった感性に、疑問、不満を持てという事は理解できる。しかし、資本家の利益追求がグローバリズムの名のもとに、最安の労働力を求め、結果的に共産主義中国の国力を増大させ、決着がついたはずの共産主義国と資本主義の覇権争いも再燃している。まして、コロナという雇用・経済危機の中で、目先の生活を追わなければならない者にとっては、武器にまではならない気が・・・。