ジャズアルバムそのままの表題だけど、このニューヨークの老舗ジャズバーに行きました。日本のショッピングモールにある雑貨店ではなく、本物です。コロナの蟄居生活で、古い写真を見ては、興奮を再度蘇らせています。
多分、ビバップを知るジャズファン以外にはこの高揚感は伝わらないかもしれません。ビバップは、1950年代に突如現れた現代ジャズで、マイルスディビス、ソニーロリンズ、コルトレーン、キャノンボール・アダレイ等、ジャイアントと言われたジャズメンの出発点となった演奏です。ライブハウスがNYの夜の酒場で盛んだった当時と同じ姿で唯一残っているのが、このビレッジ・ヴァンガードなのです。その他のバードランド等の店舗は、店名は同じでも改築されています。アメリカが世界に誇れる文化遺産のはずで、もう少し残されてもという気はしますが、主要スタープレイヤーが黒人の為だった事もあったのかもしれません。
このライブハウスで録音されたアルバムの名盤で最も有名なのが、表題のアルバムで、ソニー・ロリンズの1957年のライブです。他に、ビル・エバンズのワルツ・フォー・デビーもここのライブとしては超有名盤です。
店舗は、7番街の広い通りに面し、歩道に赤いテント屋根が張り出していて、すぐわかります。歩道側には、ゴミ袋が集積されており、生活感にあふれてます。だだし、夜になると、何となくライブハウスの猥雑観が出てきます。怪しい雰囲気の美容院とファミレス風のピザ屋の店舗に挟まれた、真っ赤な狭いドアから天井まで赤く塗られた地下への階段を降り、薄暗い店内に入ると、一気に60年代です。創業は1935年との事。
店の規模は小さく、スタージから離れたカウンターのあるところに30人、ステージサイドの三角形の部分は多分50人程度の感じです。雰囲気としては、廃校になった小学校に、写真と当時の物品を並べた、地方の観光資源というと、言いすぎでしょうか。舞台方向に狭くなっており、左側にグランドピアノ、その奥にべース、右にドラムでその前がホーンの並びでした。ワルツフォーデビーはエバンスのピアノが右なので、配置は逆ですね。
演奏は Renee Rosnes カルテットという事で、ピアノ、テナー、ベース、ドラムの構成で、かなり正統的なジャズという感じでした。僕自身は、60年代の録音を小さいステレオで聞いてるリスナーなので、演奏の質などコメントは出来ません。それでもベースの響きがすばらしく、床、壁の部材や形状といった音響環境ともあいまってか、ああこれが本場の音だと、不思議に納得出来ました。ピーターワシントンという、ジャズメッセンジャーズに在籍した、プロでもかなりハイレベルのプレイヤーだったみたいです。
開演30分ほど前に店に並びましたが、前には10人程度しかいなく、ほぼ最前列のテーブルに案内されました。注文は、最初に飲み物を頼むとそれきりで、演奏中は通路が埋まり、ウェイターも含めて人の移動は不可です。店内は、音楽を聴くために来ている人ばかりで、ハードな客層が多いみたいです。ジャズに興味のない同行の妻は、ドラムが鳴っているすぐ前の席で、寝ていました。隣の仙台から来たという日本人グループも寝てました。時差ボケだと思うけど、この雰囲気で寝られるのはすごいですね。ジャズをバックにおしゃれに食事だとか、会話を楽しむなら、別の店にしたほうが良さそうです。
カウンター裏にある、トイレも行ってみました。上の最後の写真です。期待に違わず、場末のジャズバーの雰囲気でした。きちんと清掃されてましたが、女性だと一寸こわいかもしれません。
予約はネットで、33$/人。演奏者によって変動するみたいです。入場時にConfirmation Noを書いたメールを印刷して入口で提示するだけです。ビールは現金で払ったので覚えてませんが10$程度でした。
ニューヨークのジャズ事情に関しては、村上春樹の紀行文集「ラオスに一体何があるというんですか」の「もしタイムマシーンがあったなら」にこの店の来歴についても書いてあるエッセイがあるので、そちらもお薦めです。ビレッジ・ヴァンガードがこの形で残っているのは、女性オーナーの想いによるところ大の様です。