ジェフリー・パーカー 同文館
本書の原題は、The Military Revolution:Military innovation and the rise of the West, 1500-1800である。著作中に日本の長篠の合戦に触れた部分はあるが、わざわざこの書名より、原題のままの方が、読者も多くなる気がする。
1500年から1800年の間で、西洋が世界の覇権を握れた主因を軍事力の視点から解析している。1500年頃にヨーロッパで、火薬を使用した武器の改良により、マスケット銃’(火縄銃)と大砲が開発された。これらの武器の使用により戦闘法、艦船、築城法が革新され、戦争の革命が起きた。その結果、ヨーロッパの戦争形態が変わり、対外的な軍事力による支配を可能にした。
大部の著作なので、その中で興味のあるところをピックアップした。
アメリカ大陸、南アジアは銃器の使用戦法に軍事的に対抗できずに、植民地化された。
東アジアでは、マスケット銃の欠点(装填速度、命中精度)の為、中国の組織化された大規模な陸軍力には対抗出来なかった。日本は火縄銃の精度改善、斉射(鉄砲隊を分けて順に射撃)等の戦術で対応できた。これらの国が、ヨーロッパに対抗できなくなったのは、産業革命により、鋼板の蒸気船、鋼鉄の大砲、規格化された後装ライフル銃の大量生産等による更なる武器の技術革新に対応出来なかった為である。
ヨーロッパ各国に、対抗できなかった国では、戦争の捉え方が異なった場合もある。
例えば奴隷狩りが目的の戦闘では、殺傷を減らす必要があり、殺傷兵器は発達しない。
スペイン・ポルトガルのアジア進出は、領土拡大ではなく、略奪した産品の交易路確保が目的であった。オランダの東インド会社の戦略は、スペイン・ポルトガルのこの交易路破壊する為の戦闘(船舶・交易拠点の破壊)が優先された。イギリスの東インド会社は、最初は経費のかかる戦闘を抑えて利益をあげる事を目標とした。但し、フランスがインドに勢力を伸ばしてきたあたりから、現地兵を雇って、対外勢力排除戦争を行った。
本書では、マスケット銃(火縄銃)と青銅製大砲の開発以降は、武器の技術革新より、これらの普及による戦闘の大規模化に伴う、武器・弾薬の配備・補充、食料、医療の確保・移送等、後方支援、軍事費、兵士の確保が重要だった事が指摘されている。個々の武器の革新に目を奪われがちだが、軍隊としての運用・配備の観点からは、規格化、製造、維持のコスト等様々な要素があり、新しい武器は簡単には普及しない事も述べられている。西洋の世界支配の主因として科学技術の発展とともに、その組織的運用に注目する必要がありそうだ。